道すがら≪前篇≫AFRO IZM 走れなくなった馬がやがてその命を失うように、人も歩みを止めては生きられない。 彼らは新たな道を、新たな力を求め、ただ黙々と足跡を刻む。 鉄の剛剣はより鋭く、天を睨む巨砲はさらに重く、身を包む鎧はなお固く。 だが、それは彼らだけではない――。 相向かうは天空の、砂漠の、そして密林の覇者たち。 盾をも徹す牙はより鋭く、空を裂く尾の一撃はさらに重く、砲弾すら弾く鱗はなお固く。 ほの白く煙る朝もやの向こう、道は交わる。 荒ぶる鼓動と、迫る獲物の息づかい。 先へ行くか、ここで伏すのか。 遠く角笛の音が告げるは、火花散る死闘の始まり―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~≪前篇≫~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「頼むよ~、おやっサンだって作ってみたいだろ~?」 「う~むしかしな、ちょいと強度が心配なんだ・・・」 「大丈夫だって!重いより軽めのほうがいいんだよ!」 ここはミナガルデの工房。 蒸し暑い熱気と、鉄槌で金属を叩く音、堅い何かを削る音、熱したものを水に漬ける音などで賑わう“街の”工房だ。 ここではハンターの武具の生産、強化を主に、その他にも街の生活用品なども手がけている。 そのためハンターだけではなく住民や行商なども足を運ぶ、いわゆる“街の”工房なのだ。 「軽すぎず、重すぎず、振り回せる程度な重さで、強度をなるべく強くねぇ・・・」 「そうそう!俺の故郷ではあるんだよ、こんな武器がさ!」 その工房で一際大きい声を上げているのは、桜火だ。 黒色の頭髪、前髪を右目のほうに垂らし、その垂らした髪の一部分が金色、襟足は左側だけ長め。 モミアゲからアゴまでヒゲを伸ばし、そのアゴにもヒゲを蓄えている。 身に着けているのは相変わらず特殊な盲目竜フルフルの素材で作った服、腕にはマカル、腰にはこの地方には無い珍しい腰巻。 ズボンは毒怪鳥ゲリョスの素材で作ったものだが、ブーツは桜色の“ハイメタ”と呼ばれる防具の≪Uモデル≫だ。 腰には二本の刀を差しており、一本は“太刀”より少し短く、もう一本は長物。 「まぁ、作るのは初めてじゃないが・・・、これを武器にしたヤツはいねぇぞ?」 そう話すのは工房長の一番弟子、シド。 「初めてじゃないのかよ?誰だ?もしかしたら俺の故郷の生き残り・・・」 「いや、物干し竿に似てるなって思ってな!」 ガッハッハと笑い、桜火の肩を軽く叩く。 「じゃ、30000zで引き受けてやるよ、明後日にでも取りに来な!」 そう言って奥のほうへ入っていくシド。 「物干し竿って・・・」 桜火は少し心配したが、シドが行ってしまったので仕方なく工房を出た。 ―ドシッ― 「ブニャ!?」 「おぉっ、すまねぇな」 買い物客で賑わう人ごみの中で、何かが・・・、いや、誰かが蹴られた。 「すまないじゃないニャ!もっと下にも気を配ってほしいのニャ!」 そう言って自分を蹴ったハンターに抗議するのは獣人族のアイルー。 獣人族とは、ニンゲンとはまた異なる背格好、明らかに霊長類からの進化ではなく、獣からニンゲンに進化した生態の種類だ。 獣人族は人間語を話し、その毛色や毛並みは様々。 猫のような容姿をしているが二足歩行で、語尾に「ニャ」や「ゴブ」をつけるのが特徴だ。 「あ~ん?なに生意気言ってんだ?」 ハンターはアイルーに向かって明らかに挑発的な態度を示す。 「おい、そのへんでやめとけよ~?」 その後ろで声がしたかと思うと、桜火が一匹と一人の間に割り込む。 「桜火・・・、ちっ、しょ~がねぇな」 ハンターは自分とアイルーの間に入り込んだ相手が桜火だとわかると、そそくさと行ってしまった。 「あっ、待つニャ!まだ謝ってもらってないニャ!」 アイルーは追いかけようとする、が・・・。 「待てよジン!追いかけても無駄だって、これやるから勘弁してやってくれよ・・・」 「ニャ!マタタビニャ!嬉しいのニャ~、桜火はやっぱり他のハンターとは違うニャ~」 そう言ってジンは大好物のマタタビをもらい、桜火の肩に乗る。 「お前も気をつけろよな~、で、どこ行くんだ?」 「今からボクは食材の買い足しニャ!商業区へ行くところだったニャ!」 ジンはマタタビを嗅ぎながら、ご機嫌で話す。 「そうか、送ってってやるよ、この人ごみじゃまた蹴られちまうしな」 「ニャ!ありがたいのニャ!」 「っつ~か、なんで最近はこんな人が大勢・・・、なんなんだ?」 「もうすぐ“狩猟祭”だからじゃないのかニャ~?」 「あぁ、またやんのかアレ、ったく王宮の考える事は・・・」 このミナガルデは、居住区、商業区、工場区、王宮の四つのエリアに分かれている。 基本的に王宮がすべてを管理し、ガーディアンなどで秩序を守っている。 実はハンターズギルドは王宮非公認の組織なのだが、今まで王宮がギルドに営業停止処分を出した事はない。 その理由として、王宮ではどうする事もできないクエストの依頼などを請け負ったり、街を守ったり。 食材調達、商品の売買など、実質的にあらゆる事で街を支えているのは、他ならぬハンターズギルドだからだ。 そんな王宮とギルドが和解しない理由の一つとして“考え方の違い”がある。 王宮は“モンスターは狩れるだけ狩り、自分たちの生活を潤す”が狩りに対しての考え方。 対してギルドは“狩る必要の無いモンスターは無駄に命は奪わず、あくまで自然の法則通りに”がモットーだ。 当然“狩猟祭”も王宮主催のお祭りで、この日ばかりは他の地方からも大勢のハンターが集まる。 その理由として、狩猟祭でいい成績を収めれば王宮から依頼が入る。 その報酬額はギルドとはケタ違いで、当然ハンターとしての名誉も上がる。 それを目当てにするハンターもいれば、無駄に生命を奪う事を嫌うハンターもいる。 しかし、王宮が管理する新米ハンター育成学校の教師としての依頼が入ることもあり、 結果的に大勢のニンゲンの命を救う事にも繋がるので、一概にそれを咎めることはできない。 ここが、王宮とギルドとの対立関係と、お互いが干渉し合わない理由だ。 「桜火は狩猟祭には反対派なのかニャ?」 「あぁ、俺はどっちかって言うと自分の手が届く人達を守れればいいし、無駄な殺生は嫌いだ」 「そうなのかニャ~、ボク達アイルーも、ギルド派ニャ~」 「でも、王宮で料理人やってるヤツもいるだろ?」 「ニャ!それはまた生活のためでもあって・・・」 アイルーは少し落ち込み、肩をすくませる。 「ハッハッ!冗談だって、そこまで咎めるつもりはねぇよ」 「ニャ!笑うなんてヒドいニャ!」 「文句言うな、ホレ、着いたぞ」 そう言って桜火は肩に乗せていたジンを降ろし、別れを告げ、大衆酒場に向かって行った―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ここでもけっこう見かけねぇ面が・・・」 桜火はいつもより人が多い酒場を見渡し、いつものメンバーを探す。 「おう桜火!こっちだこっち!」 そう言って手を振るのはリョー。 茶色の頭髪、オールバックで、襟足は一本に結んであり、右耳に羽の付いたピアスをつけている。 上半身は“一角竜”の二つ名を持ち、モノブロスと呼ばれるモンスターの真紅の鎧を身に付けている。 腕には雌火竜リオレイアの鱗をベースに鉱石で補強してある腕当てを付け、両方を≪Sモデル≫にモデルチェンジしている。 赤い布地で、ハンターズギルドの問題解決人、ギルドナイトが見に付けていると噂されるギルドナイトスカートの形の腰巻。 イーオスと呼ばれる鳥竜種の赤い鱗や皮で作られたズボンに、灰色の鉱石を使ったブーツ。 背中には水竜ガノトトスの素材で作られた〔水剣―乱水―〕と銘打たれた大剣を背負っている。 この大剣、斬撃時に高圧縮された水が噴き出し、それが刃となってモノを斬る仕組みだ。 「おっ、いたいた・・・カイとシュウは?」 桜火は人ごみをすり抜け、リョーの元へ辿り着く。 「あぁ、見つかんねぇんだ、ギルドのネーちゃんに伝言しといたから、先に俺の部屋行こうぜ?」 「そうだな、ちょっと人が多すぎてゆっくりミーティングもできねぇしな」 そう言って二人は酒場を出て行こうとする・・・が。 ―ドンッ― 「おぉ、すまない・・・」 リョーはぶつかったハンターに謝る。 「あぁ、こっちも不注意だった・・・」 リョーがぶつかった男も、すぐに謝る。 その男はリョーと同じくらいの背丈で、茶色の髪を後ろで結ぶ“サムライ”と呼ばれる髪型。 鼻下とアゴにヒゲを蓄えており、肌色はやや黒。 市販で売られているバトルメイルを≪Uモデル≫に変えた鎧と腕当て、 腰から下は雄火龍リオレウスの亜種で、蒼い体色をしていると伝えられるリオソウルの腰当てと具足。 バトルメイルの背甲部分には投げナイフではなく三本の片手剣ほどの大きさの剣、 さらに羽虫カンタロスの鋭利な羽を何枚も加工し、凄まじい切れ味を誇る〔黒刀―朧月―〕と銘打たれた太刀が背負われていた。 「人を探しているんだ、でっかくて太めの、肌が黒い男を知らないか?」 その男は不意にリョーに問う。 「あ~、知らないな・・・」 「そうか・・・、おっと自己紹介が遅れた」 そう言ってその男はリョーに握手を求める。 「俺はサイクス、狩猟祭に出るためにこの街に来たんだ、アンタは?」 リョーは握手に応じ、手を交えながら自己紹介をする。 「俺はリョー、んでこっちは桜火、俺らは狩猟祭には参加しないが・・・、まぁよろしくな」 「参加しない・・・?」 サイクスは急に手を離す。 「ふん、狩猟祭に参加しない軟弱なヤツに触れちまうとはな、俺も見る目が落ちたもんだ・・・」 そう言って急に雰囲気が変わるサイクス。 「ちょっと待てよ、どういう意味だよ?」 急に態度が変わるサイクスに対し、リョーは困った顔で問い詰める。 「そういう意味だ、俺はお前らみたいな軟弱なヤツらと戯れる気はない、じゃぁな」 そう言ってサイクスは人ごみをすり抜け、カウンターに行ってしまった。 「・・・・なんだありゃ、感じ悪いヤツ」 リョーは呆然としながら桜火に話しかける。 「でもアイツ、強ぇよ」 桜火は腕を組み、カウンターに座っているサイクスの背中を睨むように見ている。 「あの防具、リオソウルのモンだろ?って事はそれくらい腕があるって事だ、それに・・・」 「それに?」 「背中に差してるのは投げナイフじゃねぇ、一本は多分“スリープショテル”だ」 リョーは桜火の視線の先を見る。 「って事は、ガノトトスをも狩っちまうって事か・・・」 ガノトトスとは、“水竜”と呼ばれ、水の中に生息する魚竜種のモンスターだ。 淡水でも海水でも生活することができ、淡水のほうは青色、海水のほうは翠色の鱗を持っているのが特徴。 翠色の体色のほうは一般的に“亜種”に指定されていて、海水魚ならではのケタ違いの体格を誇る。 体長は全モンスター中でも大型クラスに位置し、その体当たりの衝撃は、生身で食らえば即座に命の危険にさらされる。 また水のブレスを吐き、薄い鉱石で作られた防具など簡単に壊すほどの水圧で、その器官は武具に生活にと重宝される。 「あとの二本はなんだ?」 リョーが桜火に問いかける。 「遠くてわからねぇ、とりあえずさっさと出ようぜ?」 そう言って桜火は酒場の出口に向かって歩き出す。 「お、おいちょっち待てよ~!」 リョーは人ごみをかき分け、桜火の後を追う―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「さて・・・、なんか飲むか?」 リョーは氷結晶をふんだんに使い、食物や飲料などを多少の期間なら保存できる“クーラーボックス”を開ける。 「寒冷期が終わりそうで暖かくなったけど、まだクーラーは早いんじゃねぇの?」 笑いながら煙草に火をつける桜火。 「そうか・・・、じゃ、ホットコーヒーでも飲もうぜ!」 何故か元気に支度を始めるリョー。 「え~と、桜火、ちょっと〔狐火〕貸してくんねぇ?」 「だからよ、俺の武器は着火器具じゃねぇぞ・・・」 そう言いながらも狐火を鞘に入れたままリョーに投げ渡す。 「サンキュー」 ―ガチャッ― 「お、来たな・・・」 桜火は開いたドアのほうを見る。 「うぃ~っす」 最初に入ってきたのはカイ。 茶色の頭髪、長髪で、見事にストレートな髪質、前髪は六対四で分けてあり、視界に支障がないようにしている。 雄火竜リオレウスの赤黒い部分の鱗や甲殻のみを使った防具でまとめており、頭の防具はつけていない。 狩りの最中は右眼に眼帯をしており、本人が言うには“集中力が増すから”らしい。 肩には以前壊れた“アルバレスト”ではなく〔火竜弩〕と呼ばれる、弓状のライトボウガン。 “へビィ型”より軽い“ライト型”は、機動力と共に装填速度も速いモノが多く、 後方支援に優れ、なおかつ連射速度も速い事から、銃弾の雨を降らすこともできるのが“ライト型”の特徴だ。 火竜弩は、雄火竜リオレウスの耐火性に優れた甲殻を使い、ハンマーを弓状にする事で威力を底上げした代物。 「お、新しいのはライト型にしたのか!」 リョーはコーヒーを温めながら、カイの新しいボウガンの感想を言う。 「うん、これならまた装填中にやられそうになっても逃げれるしね・・・」 そう言ってカイは照れ隠しなのか、ボウガンを部屋の隅に置く。 「弾丸は俺が買ってやったんだぜ?」 次に入ってきたのはシュウ。 黒色の頭髪、短髪で、モヒカン気味に立ててある。ミナガルデで流行の「ベッカムヘヤァ~」だ。 その顔には、狩りの時のみ髑髏の兜をつけており一見不気味なようだが、その目は驚くほど綺麗で、非常に不似合いな兜だ。 刃虫カンタロスの硬い甲殻と刃羽で作られた鎧、腕当て。 兜は今は付けておらず、鎧竜グラビモスの幼体、岩竜バサルモスの硬い甲殻で作られた腰当てにくくりつけている。 下半身は、機動力に長けた市販のハンターグリーヴを〔Uモデル〕にモデルチェンジしている。 背中に背負っているのは、十字になった刃がついた槍、〔十字槍―宝蔵―〕で、一般の武器とは違い異色の武器だ。 「まぁ、半分はワタシが出してあげたんだけどね」 そう言ってシュウの次に入ってきたのは、なんと女性だった。 黒色の頭髪を腰まで伸ばし、頭の中間から二十本ほどに編み込み、肩口からそれらを一つに結わえている。 “クロオビ”と呼ばれるハンター養成学校卒業の証にもらえる防具を、 胸と腕に身に付けており、腰には怪鳥イャンクックの亜種で、桃色ではなく青い甲殻で作られた腰当て。 足には鳥竜種ランポスの亜種で、雪山に生息する“ギアノス”の具足。 右側の腰には〔パワーハンターボウ〕と呼ばれる市販の弓より強化された弓。 その弓の生産には、火山に生息する岩竜バサルモスの甲殻が必要で、その弓は中級ハンターの証を意味する。 「エリーが来たってことは・・・、クロもか?」 そう言ってリョーは、六人分のカップを取り出す。 「あ~、クロは工房に行ってるから少し遅れるはず!」 そう言ってエリーは、カイがボウガンを置いた場所に同じように弓を立てかける。 「そうか、ほんじゃちょっと待ってるか」 リョーは六人分のカップに温めたコーヒーを注ぐ。 「エリー、狩りの調子はどうよ?そろそろ上級モンスターに挑戦するのか?」 桜火は煙草の火を消したかと思うと、またもう一本吸い始める。 「う~ん、まだちょっと怖いかな・・・」 そう言ってエリーはコーヒーにハチミツを大量に入れ、もどかしそうに混ぜる。 「そうか」 桜火はそれを聞くと、少し安心したような、そんな雰囲気で煙草を吸う。 「いや~~~、遅れましたぁ~~」 そう言って入ってきたのは、少し小柄な男。 黒い肌に、銀色の髪の毛をモヒカン気味に切りそろえ、真ん中で編みこみをしている。 毒怪鳥ゲリョスのゴム質の素材で作られた防具を全身に身に纏い、兜だけは腰にくくり付けている。 その容姿は、一言で言えば肥満・・・だが、それはこの防具の特徴である。 分厚く柔らかい防具で攻撃を吸収し、反撃の時間を短くする、歩く要塞といったようなイメージだ。 その男の背中には、重そうなハンマーがくくり付けられている。 ハンター養成学校卒業の証で〔クロオビハンマー〕と呼ばれる大きな鉄槌は、 モンスターの頭部を叩けば一瞬で気絶させ、胴を叩けば骨を折る、そんな印象の武器だ。 そのハンマーの柄部分には、“クロウ=ティンバー”と赤く、目立つ表記で名前が書かれている。 「やっと全員そろったな・・・」 そう言ってリョーは、五人が囲んでるテーブルの、空いてる所に座る。 「これよりミーティングを始める、桜火から順に今後の予定を発表!」 そう言ってリョーも煙草に火をつけ、コーヒーを飲む。 この六人は共に徒党を組み、基本的にこのメンバーのいずれかで狩りをする。 “チーム”と一般的には呼ばれて、簡単に言えばハンターズギルドの中でのハンターによるギルドだ。 メリットとしては、お互いがよく知ったメンバーなので作戦を立てやすいし、個人行動に走られるといった問題もない。 チームワークを要する複数の狩りでは、お互いを知った仲であればあるほどスムーズに狩りが進む。 デメリットもとくに無いので、チームを組むハンターも大勢いる。 時雨はまた別格だが、大抵のハンターはこの“チーム”で狩りを行なっている。 リョー達六人は皆、知り合いで集まったチームだが、 全員が“困っている人を助け、弱い人を守る”という信念の下に徒党を組んでいた。 「俺はいつも通り、困ってる依頼を優先して受注しようと思ってる、ただ、狩猟祭の事も考えてる」 「俺とカイも桜火と同じでいつも通り・・・の予定だったけど、もう狩猟祭か~」 シュウは手を頭の後ろで組み、壁に寄りかかる。 「それなら、警備の依頼がくるはずだから、それを請け負わない?」 エリーがコーヒーを啜りながらリョーに向かって提案する。 狩猟祭は、広い街中の、王宮以外の場所に捕獲や養殖されたモンスターが多数開放される。 ハンターはそれらを狩り、そのモンスターごとに決められたポイントを得る。 ポイントを判定するのは王宮のスタッフで、高いところから全体を見て、紙にメモする。 最後にその紙に書かれた点数を合計して、一番多いものが優勝・・・といった単純なシステムだ。 だが、街中に開放されるモンスターはランポスなどの小型モンスターだけではなく、 “盾蟹”の二つ名をもつダイミョウザザミなどの大型モンスターも少数だが開放される。 これらのモンスターが街門から外に出たり、居住区などの家を破壊しないように警備につくハンターも同時に募集される。 街の外、建物の周辺に警備につき、なるべく参加者と戦うように仕向けるのが警備の仕事だ。 街の外に出てしまった飛竜種などのモンスターは、基本的にはまた捕獲されてしまう。 このようなシステムで狩猟祭が行なわれ、ギルド派で狩猟祭には参加しないハンターは街の秩序を守っている。 ギルドに警備を依頼するのは王宮で、このへんも王宮がギルドに営業停止を申し付けない理由の一つだろう。 「ふむ、クロは?」 リョーは煙草の煙がみんなにかからないように天井に吐き、煙で輪を作りながらクロに問いかける。 「ボクもエリーの意見に賛成かな、昨日まで狩りに出てて少し休みたいし・・・」 「決まりだな・・・」 そう言って桜火は煙草の煙を、リョーが作った輪に重ねるように吐き出す。 「よし、我が“リュウゼツラン”は狩猟祭が始まるまで休暇!みんな武具の強化、武の鍛錬、好きなように過ごそう!」 リョーは急に立ち上がり、全員に向かって今後の予定を発表する。 「次の集合は?」 カイがリョーに尋ねる。 「狩猟祭の日時が発表されたら、前日の昼にまたここへ集合だ!」 リョーはカイの問いかけに対し、全員に答える。 「う~し、解散っ!」 桜火の解散の声と共に、全員が立ち上がる。 「桜火、ちょっと工房までついてきてくんねぇか?」 リョーは桜火に工房まで付き添いを頼む。 「かまわねぇけど、なんか依頼すんのか?」 「あぁ、ちょっと大きな武器が欲しくてな・・・」 そう言ってリョーはびっしりと何か書かれた紙をポーチにしまう。 「ほぉ~~、どんなモン作るんだ??」 桜火はリョーに尋ねる。 「あぁ、向こうに着くまでに説明するよ」 そう言ってリョーは六個のカップを片付け、支度をする。 「工房に行くなら俺も行くよ、ちょっとカタログを見ようかなって思っててさ」 シュウはそう言って扉が開いたままになるように寄りかかる。 「よし、じゃあ三人で行こうぜ!」 リョー、桜火、シュウは工業区へ。 「じゃアタシは帰ろうかな、絵もまだ途中だし・・・」 エリーはそのまま自宅へ。 「カイ、酒場行こうよ!たしか射的の景品が今日は特別だったんだよ!」 「ま~た俺がお前のために景品取るのかよ、しょーがねぇな・・・」 カイはぶつくさ何かを呟きつつ、クロウと共に酒場へ。 それぞれが、それぞれの時間を過ごし、狩猟祭の日を迎える―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「おっ、日程が決まったみてぇだぞ」 その日、酒場は狩猟祭を目的としたハンターが大勢集まり、五日前よりもさらに混み合っていた。 リョーは少し離れた桜火に向かって掲示板に貼られた紙を指差す。 桜火は人ごみをやっとの事ですり抜け、掲示板に貼られた紙を覗き込む。 “≪狩猟祭、迫る!!≫ ハンター諸君が心待ちにしていた狩猟祭が、ついに開催する!! 本番は三日後!!日が昇ってから四時間後に受付開始、それから一時間後にスタートだ。 もうすでに宿屋はパンク状態、泊まれない者は王宮に来れば、ガーディアンの部屋を貸し出そう。 それでは、諸君らの活躍を期待しているぞ!! 王宮・大臣より” 「むっ?」 「あんっ?」 先に気がついたのはサイクス。 日程が書かれた貼り紙を覗き込む自分のすぐ横には、同じように掲示板を覗き込んでいる桜火のヒゲ面があった。 「これはこれは、軟弱ハンター様、アナタも狩猟祭に興味がおありで?」 サイクスはワザとらしく丁寧な口調で桜火に話しかける。 「まぁ参加はしねぇけど、警備につくからな・・・」 桜火は相手の挑発に乗らず、冷静に言葉を返す。 「っは!警備についたところで、大型の高得点モンスターにやられないように気をつけろよ?」 サイクスは挑発を続け、声を張り上げて笑う。 他のハンターも笑い声に気付き、桜火とサイクスにほとんどのハンターの視線が集中する。 「そちらこそ高得点ばっか狙って、時間切れでビリにならないようにな、上級ハンターの“恥”だからよ・・・」 桜火は“先程のお返し”と言わんばかりに“恥”という言葉を強調し、さらに不慣れな丁寧口調で返す。 「ほう、それなら勝負といくか・・・?」 サイクスは自信満々そうに桜火に話しかける。 「あとで吼え面かくなよ?」 桜火はそう言って酒場の出口へ歩いて行く。 「っは!いい度胸だ、おいピート!いつものやつの準備だ!」 「はいよ、ったくサイクスも弱いものイジメが好きだな・・・」 ピートと呼ばれた男は、酒場にあるハンターズショップで弾丸を購入する。 ハンターズショップとは酒場にあるハンター専用の雑貨屋で、弾丸はもちろん、瓶詰めの止血剤や解毒薬も売っている。 その他にもモンスター情報をはじめ、罠の調合に使うトラップツールや大きなタルなども揃えている。 「お、おい桜火・・・」 リョーは桜火を止めようと呼び止める。 「止めんなリョー、あぁゆうヤツは嫌ぇだし、俺が軟弱じゃねぇってとこを教えといておかねーとよ」 「だからってお前、どんな勝負かもわかんねーしよ?」 「相手の土俵で勝つ、そうすりゃあっちも俺が軟弱じゃない事がわかり、俺は威張りたい放題だ・・・」 桜火の闘志に火が付いたのを知ったリョーは、両手を軽く上げ、“やれやれ”といった感じに首を振る。 「表の噴水付近で勝負だ、軟弱ハンター様よ!」 サイクスは酒場中に響くくらい大きな声で周りのハンターに宣伝した―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「さてと・・・ルールを説明してやる」 サイクスは準備が整ったのを確認すると、桜火に向かって偉そうな物腰で話し始める。 周りではすでに野次馬が集まり、ちょっとした騒ぎになっている。 “何が始まるんだ?”“狩猟祭前の余興だってよ”“あの対峙してるヤツ、桜火じゃねぇか?” 周りでは野次馬のハンター達の話す声が聞こえ、密かにざわついている。 「さっさと説明しろよ」 桜火は腕を組み、自信満々に言い放つ。 「いいだろう」 そう言ってサイクスはピラミッド状に十個重ねた大きなタルを指差す。 「ルールは簡単、あの大タルをより少ない弾数で、より早く全部破壊した方の勝ちだ」 「ほぅ・・・」 「得物は俺のチームメンバーが持っている“グレネードボウガン”を使う、あとで能力差のせいにされたらかなわねぇからな」 そう言ってサイクスはピートからボウガンを受け取り、弾丸を装填する。 「さて、それじゃ俺から・・・」 ―バシュッ、バシュッ― サイクスのグレネードボウガンから弾丸が次々と発射され、大きなタルが一つ、二つと破壊される。 「15秒か、使った弾数は十個、ミスなしだな」 「おぉ、すげぇ・・・」 サイクスの記録に野次馬が騒ぐ。 通常、スコープを覗いて狙いを定めるのに熟練ハンターでも2秒かかると言われている。 が、サイクスはもっと短く、弾の装填が一回なのを考えても十五秒は異例だった。 「さて、次はお前の番だぜ、せいぜい恥をさらさないようにな、軟弱ハンターさん」 そう言ってサイクスは桜火にボウガンを渡した。 「いいだろう、ちょっと待ってろ」 桜火は野次馬を掻き分け、広場の出店に何かを買いに行った。 「おいおい、戦線離脱か?まったく情けねぇなぁ」 そう言ってサイクスはまたも大きな声で笑い声を響かせた。 「待たせたな・・・」 帰ってきた桜火の自信満々な表情を見て、少し緊張するサイクス。 広場に沈黙が流れる。 「さてと・・・」 そう言って桜火はボウガンに弾丸を込め、装填する。 ―ドガッ、ドォォォォン― 桜火が弾丸を放ったと思うと、ピラミッド状に十個重ねられた大きなタルが全て、真ん中から一気に破壊される。 「な・・・」 サイクスは驚いた表情を見せる。 「使った弾丸は一発、時間は・・・二秒か?」 そう言って桜火はボウガンをピートに投げ渡す。 「ふっ、ふざけんな!お前が撃ったのは拡散弾だろうが!!」 サイクスは大きく声を張り上げ、激しく講義する。 「何言ってんだ、弾種の指定はしなかっただろ?ルールに従ったまでだ、それとも、自分の説明不足を認めるのか?」 そう言って桜火は両手を肩口まで上げ、“やれやれだ”といったようなポーズをとる。 「だはははははは!さすが桜火だ!やることが一つ抜けてやがる!」 「アイツ、本当こういうセコい手はすぐ思いつくんだからな~~~」 広場の野次馬も、大きな声で次々と笑い出す。 「阿呆、竜人は頭がいいんだよ、ま~俺は混血の亜人だけどな・・・」 桜火は笑っているハンターに対し、自分も少しニヤけながら話す。 「ちっ、行くぞピート!」 そう言ってサイクスはその場から立ち去そうとする。 「おい、これからは俺を見つけたときは挨拶に来いよ、“軟弱ハンター”さん」 桜火はそう言ってさらに広場の笑いをとる。 「桜火、だったか?覚えておけよ・・・」 サイクスはそう言い残し、宿へと向かって行った―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「さて、ついに明日に迫ったワケだが・・・」 リョーは腕を組み、チームメンバーに話しかける。 前日の正午、リョーの部屋で待ち合わせした五人は、テーブルを囲み、リョーの話を静かに聞いている。 「すでに警備のクエストの受注はしておいた、これから配置場所を発表する」 そう言ってリョーは何か書かれた紙をテーブルに置く。 “≪警備‘リュウゼツラン’の配置≫ リョー:商業区・アリーナ付近 桜火 :商業区・アリーナ付近 シュウ:街門 カイ :街外周・西側 エリー:工業区・入り口付近 クロウ:工業区・入り口付近 ・当日は、自分が怪我をしないように細心の注意を払って警備に当たる事。 ・自分のランクに合わない大型モンスターと対峙した際は、迷わず近くの上級ハンターに助けを求める事。 ・やむを得ず怪我をした際は、無理をしないですぐに補欠員と交代する事。 これらの注意点を守り、安全に警備に当たって下さい。 ミナガルデ・ハンターズギルド” 「ほぉ~、商業区か」 「ワタシは工業区ね、クロ、ちゃんとサポートするから頑張ってね」 「う~ん、エリーのサポートか・・・、背中に気をつけるよ」 「俺は外周だな、他のハンターがいいヤツなら助かるんだけどな」 「俺は街門かよ、商業区がよかったな~~~」 各々自分の場所を確認すると、少しだけ頭の中で本番のイメージを膨らます。 しかし、クロウだけはエリーに頬をつねられ、痛そうに顔を歪めていた・・・。 「よ~し、それじゃ各自解散!明日は怪我をしないように!」 「う(は)~い」 全員が同時に返事をし、リョーの部屋を出る。 「シュウ!」 「ん・・・」 桜火はシュウを呼び止めた。 「ちょっと工房まで付き合ってくんねぇか?新兵器がもう出来上がってるからよ、それの練習に付き合ってくれよ」 「あぁ、いいけど今槍しかもってねぇんだよ、それでもいいか?」 「あぁ、槍のほうが助かるよ」 そう言って桜火はシュウと共に工業区へ向かう―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「お、桜火か!来るのが遅ぇぞ!」 「わりぃ、ちょっと忙しくてな!新兵器はどうよ?」 「あぁ、バッチリだぜ、ほらよっ!」 そう言ってシドは立て掛けてあった棒を桜火に投げ渡す。 桜火が受け取った棒は、刃の部分も入れてシュウの槍と同じ長さだった。 その両端にはほのかに赤い装飾品がついていて、 柄はシュウの槍より細いが、そのぶん両端の装飾品を巻くように繋いだ細い鎖で全体は太くなっている。 柄部分には巻かれている鎖で見えにくいが〔八角棒―蛍火―〕と銘打たれていた。 「ちゃんと要望どおり、漢字の冠名をつけといたぞ」 「“蛍火”って・・・、あれは本当の火じゃなくて光なんだけどな」 「文句言うな、俺は東方の事はさっぱりわからんのだから」 「まぁいいや、ありがとさん!裏空いてるか?」 「あぁ、今は狩猟祭前日で客が少ないから空いてるぜ」 「よっしゃ、ちょっと借りるぜ」 そう言って桜火はシュウを呼ぶ。 ここ、ハンターの装備を作る“武具工房”では裏に広い部屋があり、 そこでは作ったばかりの武器の振り心地を確かめたりするための練習場となっている。 武器カタログに載っている製品は無料で貸し出しされ、それを使ってみてから依頼をするかどうか決めるハンターも多い。 今は狩猟祭前日で、他の客はクエストから帰ってきたハンターくらいしかおらず、練習場は空いているみたいだ。 「ニャ!その声はやっぱり桜火なのニャ!」 「ん・・・ジン?何してんだこんなとこで?」 桜火を呼んだのは獣人族のジンだった。 「それは・・・秘密ニャ」 「はは~ん、さてはお前、ハンターになるつもりか?やめとけやめとけっ」 「ち、違うニャ!」 「じゃあどうしてこんなとこにいんだ?」 シュウは槍の刃の部分にゴム質のカバーをかけながらジンに聞く。 「なんでもないニャ!それより桜火、マタタビ欲しいニャ!」 「お前、ほんとに鼻がいいよな・・・」 そう言って桜火はポーチからマタタビをとりだし、ジンに渡す。 「ニャ!嬉しいのニャ!それじゃ桜火、またニャ~~~~!」 そう言いながら、手も振らず、逃げるようにその場から立ち去るジン。 「あ、いっけね、結局なんなのかわからずじまいだ!」 桜火は頭をかきながらシュウに向かって言う。 「まぁいいじゃないの、それより準備できたぜ」 「お、よし、それじゃ練習といきますか・・・」 そう言って二人は練習場へ入って行った。 ~数十分後~ 「ハァ、ハァ、桜火、もういいっしょ・・・」 「そうだな・・・ハァ、これだけ感触を確かめられればあとは実戦で、ハァ」 そして、狩猟祭前日の夜が明ける―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ |